少年の顔に自信が宿った。自分はそれまでの度重なる思わぬ事態によって冷静さを失い、状況判断能力と決断力を一時的に鈍らせていた。しかし、こうなればもうその心配はない。
 そんな彼の表情を見て、それまで闘っていた少年も、先程までとは正反対の優しげな笑みを彼に向けた。
「ギガイアス、狙いは一直線、“ラスターカノン”!」
 そしてギガイアスは、渾身の一撃をアーボックに放つ。もちろんアーボックが避けることはできない。
 そのまま直撃し、アーボックは気絶した。

 その頃、女性の部下たち男3人は早足で自分たちの“目的地”へと向かっていた。先程作戦会議をしていた場所からは多少離れているため、万が一のことも考えて一秒でも早く到着しなければならない。
 そして10分ほど走った後、例の目的地、“ソウリュウ大学図書館”に辿り着いた。
 入り口や窓から中をさっと確認する。人が大勢集まっている気配はない。
「よかった…誰もいないぜ」
「いや、警備員や警察くらいはいるだろ?」
「いたとしても、大人数じゃなけりゃ強行突破しちまえばいいさ。“あの方”の元で訓練を受けた俺達だろ?」
「それもそうだな」
 そんな議論をした後、3人は図書館の入り口へと向かおうとした。
 その時、彼らの安心は粉々に打ち砕かれた。
 
「誰もいなくて、よかったじゃん」
「「「!?」」」
 入り口の脇から姿を現したのは、一人の少年だった。キャップを被り、水色のジャンパーを身に纏っている。
「お前らのお望み通り、客は全員外に逃がしてやったぜ」
 少年は複数の敵を目の前にしても一切物怖じせず、自信に満ちあふれた笑みを見せていた。その姿に、大の大人である三人も多少畏敬の念を覚える。
「な、なぜお前みたいなガキがこんな所に!?一体何をしたんだ!?」
 真ん中の男が少年を指差して問い質す。少年はそれを見て、ふん、と鼻を鳴らし、話をする準備を整えた。
「…まず、あんたらがこれだけ街を破壊していながら、街からは怪我人はほとんど出ていない。死者に至ってはほぼ皆無…。つまり、」
 少年はそれまでより一層目つきを鋭くして三人を真っ直ぐ見つめ、断言した。
「あんたらの目的は大量虐殺じゃなかったってことだ」
「くっ…」
 少年がそう告げると、3人はしまった、とばかりに息を呑んだ。
「そしてこの図書館だけが爆撃に遭ってない理由…それはこの図書館にあんたらの欲しいモンがあるから、攻撃するわけにはいかなかったんだろうな」
「「「…」」」
 男たちは一切反論しない。それどころかますます不安の色が増している。どうやら図星らしい。
「んで…あんたらの欲しがってるのは」
 少年は右手をジャンパーのポケットに突っ込み、一冊の本を取り出す。
「こいつか?」
「!!」
 3人は驚愕の表情を見せ、その場で一歩後退った。計画のみならず、自分たちが狙っていたものまで、何もかもお見通しだったのだから、無理もない。
 本のタイトルは“授命の理 上巻”。一本の大木の絵がプリントされている。
「…まあ、こんだけあちこち爆破してんだから、ここの客も恐怖のあまりに逃げ出すっつー計算だったんだろうけど…ソウリュウ(ここ)のセキュリティ甘く見てもらっちゃ困るぜ」
「じゃあ、爆弾が仕掛けられていないことは…」
 向かって左の男が、恐る恐る尋ねる。
「ああ。もちろん最初からわかってた」
  少年は先程までとは打って変わって間の抜けた声で返事を返す。皮肉のつもりらしい。そのまま彼は真剣な顔に戻り、話を続けた。
「…まあどうせ“無駄な殺戮はしたくない”とかそういう名目だったんだろうが、お前らのことだから客がいたとしても強行突破してるだろ?だから、客を外に出したのさ」
「いつ爆発するかも分からない街に、か?」
 真ん中の男が尋ねる。はじめ少年の話を聞いて驚愕していた彼らも、もう何もかも見通されていると割り切ったのか、徐々に冷静さを取り戻しかけている。
「そう思うんなら、街をよく見てみるんだな」
「何…?」
 男たちは少年に指図されるままに、街の建物を見回した。そこには、数十分前まではなかったものがあった。
「!!」
「これは…」

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