「まあ、そんなこと今はどうでもいいじゃんか。僕が邪魔なんでしょ。退かしてみなよ」
 少年も同じ事を考えていたのか、楽しげな顔で女性を挑発し出す。
「それもそうね…。あんたたちを倒せば、すぐわかることだしっ!」
 女性は先程のように、いや先程よりも楽しげな表情で二人の少年と対峙する。アーボックも女性のもとへと戻っていき、闘いが始まったときの位置に再び着いた。

「ヌメルゴン、“れいとうビーム”!」
「アーボック!“ヘドロばくだん”!」
 二人の声が重なった直後、二体の攻撃がぶつかり合い、互いを相殺した。発生した煙がやがて消え、お互いの姿が見え始めたが、攻撃は届いておらず二体とも無傷だった。
「…」
 少年は、今度は黙って相手を見つめ始めた。ポケモンに命令を出そうとする気配はない。
(どうしたんだ…?)
 隣で見ている少年も、その様子を見て不安を募らせ始めた。
「あら、何もしないの?なら…“噛み砕く”!」
 女性はチャンスと思ったのか、すかさず攻撃命令をした。アーボックも逆らうことなく、すぐさまヌメルゴンに接近する。
 その時、少年の口元が微かに緩んだのを、隣で見ていたもとの少年は見逃さなかった。狙い通りの結果だったらしい。何が目的だったのか。
「地面に向かって“れいとうビーム”!」
 するとヌメルゴンは、先程と同じ冷気を今度は敵の足下に向けて噴射した。地面は氷付けになり、アーボックは足下を掬われ、その場に倒れた。
「!」
「な…」
 隣の少年にとっても女性にとっても予想外だったらしく、ほぼ同時に口をぽかんと開けてその光景を見た。しかし、闘っている少年の次の言葉によって、隣の少年だけが我に返ることになった。
「…どうしたの?」
「えっ?」
 はっとしたように、声をかけられた少年は隣の少年を見た。
「…僕らわりと優勢だけど、闘いに加わらないの?それとも傷付いたポケモン休ませとく?」
「あ…」
 少年はそう言われてようやく気付く。まだ毒を負って苦しむギガイアスがいる。自分は彼と一緒に闘うことも、ポケモンを気遣って闘いから一度身を退くことも出来る。しかし、自分だけがそれを決められるわけではない。それを決めるのは─。
「ギガイアス、できるか?」
「…!」

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