しかし、その攻撃は避けられた。女性が何も命じずとも、アーボックは自力で避けてみせたのだった。余程訓練されているのだろう、そう感じられた。
「あら、当たってたら致命傷ね。当たってたらね」
 女性は余裕の笑みで少年を挑発する。もちろんこれに乗っている余裕など少年にはなかった。
(闇雲に打ってもギガイアスを疲労させるだけだな…打開策を見つけなきゃ)
 少年は考えた。動きの鈍いギガイアスが俊敏な相手に攻撃を当てる方法を。しかし、そんな余裕も一瞬だった。
「…あら、悩んでるみたい。じゃあ1発、“アイアンテール”!」
 するとアーボックは一瞬で間合いを詰め、ギガイアスを尻尾で鞭打ちにした。速すぎて動きが見えなかったため、少年は一瞬目を疑う。
(っ!!)
「あら、驚いている場合じゃないよね。オドオドしてる間に…君のポケモンちゃん、どんどん傷付くわよ」
 女性はまた最初の呆れ顔に戻る。少年が焦りきっているのが、顔から疑えたに違いない。今度は彼のトレーナーレベルを見て失望しているのだろう。
「ギ…ギガイアス…」
 彼は傷付き痛がるギガイアスを見てますます不安を募らせた。こいつの重量なら倒れてしまうことはないだろうが、このままではダメージが積もりやがて戦闘不能に追い込まれるのも時間の問題だった。
(落ち着け…僕は仮にも…仮にもイッシュ地方の…)
 彼は目を瞑って自分に言い聞かせた。自分の立場、自分が受けた名誉。
 彼は突然の事態に戸惑い、いつもの冷静な自分を見失っている。それが自分でもよくわかった。はやく、自分を取り戻さなければならない。
 そして、数秒後、地平線の向こう側に、自分の影が薄らと見えた気がした。
(よし!)
 彼はその時、目を見開いた。女性も彼の変化に気付いたらしく、目を大きく開いて少年を見た。
「ギガイアス、“砂嵐”!」
 ギガイアスはようやく聞こえた主の命令を聞いて目を開き、自分の周囲に砂埃を発生させた。やがてそれは渦となり、ギガイアス自身の身を守る壁となった。
 そして、そのすぐ側にいたアーボックも、その砂に巻き込まれることとなった。

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