僕は厳しい現実を知って落胆するとともに、先程まで妄想に浸っていた自分を思い出し、顔が熱くなるのを感じた。そんなアニメや映画みたいな話があるわけがない、少し考えればわかることだった。
 僕の口から溜息が出たかと思うと、気付けばそのまま数秒間頭を垂れてしまっていた。男もそんな僕を見て申し訳ないと思ったのか、「あちゃー」という声が微かに聞こえてきた。
「まあでも、実際その日を境目にして、このイッシュ全体の混乱は治まったんだ。その日突然、前日までの騒ぎがまるで夢だったかのように…な。だから、あながち嘘とも言い切れねえんだ」
 男のその言葉が真実なのか、僕を励ますための出任せだったのかはわからなかったが、それまでの失望からは半身ほど抜け出せた気がした。その当時このイッシュがどんな地獄絵図だったのかは知らないが、もしその日に突然平和が訪れるというのは流石に普通ではない。僕は顔を上げて、男の話の続きを聞く体制に戻った。
「…当時、イッシュ(ここ)はどんな場所だったんですか?」
「続きが気になるか?」
 男は得意げな顔で焦らしはじめる。話をまた自分のペースにできる、とでも思っているらしい。しばらくにやにやしながら僕の顔を見ていた。
「…はい」
 僕は素直に返事をした。男にいいように好奇心を弄ばれるのは癪だったが、真実を知る機会を捨てるのは我慢ならなかった。
「…話してやりたいところなんだがな」
 男は顔から笑みを消した。またさっきと同じ気分にさせられるのか、僕はそう思った。
「俺が話しても、感じられるモンも感じられなくなっちまう」
「…えっ?」
 一瞬何を言っているかわからなかった。その後改めて言葉の意味を吟味してみたが、何も変わらない。
「この街の西端に歴史観とソウリュウ大付属の図書館があるの知ってるだろ。そこに言って調べてみるといいさ」
「…どうして、そこじゃないとダメなんですか?」
「真実を知ってみりゃわかるさ。あんたなりにいろいろ考えさせられることがあるはずだぜ。それを、俺みてえな通りすがりのオッサンが喋っちゃ、全部台無しになっちまうよ」
 男は先程とは打って変わり、自虐的な笑みを見せた。

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