そんな不思議な時間だったが、外からの一言によってばっさりと絶たれてしまった。
「おい兄ちゃん」
 その瞬間、脳内に描かれた映像が途絶えてしまい、テレビの途中で臨時ニュースが入った時のような虚しい気分になってしまった。それでも、とりあえず僕は声のした方を振り返ってみることにする。
 そこにいたのは、髭が濃いめな中年男性だった。薄いTシャツを着ており、ダボッとしたジーンズのポケットに両手を突っ込んでいる。
「そんなもんまじまじと見てるっつうことは、あんたこの辺の奴じゃねえんだな」
 少し小馬鹿にしたような言い方であまり気に入らなかったが、本人にそのつもりはないようなので、とりあえず普通に返事をしてみることにした。
「…エリエとランシャとメッシュを通って来ました」
「エリエ!?随分遠くから来たんじゃねえか」
 男ははじめから一変して、驚いた顔で僕の方を見た。もっとも、僕が自分の出身地について話すと大体みんなこんな反応をするので、僕はそこまで驚いていないが。
「それで、兄ちゃんこの石碑に興味があんのかい?」
 男はまたはじめの表情に戻り、本題に移ろうとした。
「…ここに描かれてる英雄…って、本当にいたんですか?」
「…さあな」
 男は皮肉気味に口元を緩めた。言葉の裏に何か含まれていたことは間違いない。
「…どういうこと?」
 僕はその裏をどうしても知りたかったので、素直に訊ねることにした。いかにも何か知っていそうなこの男が実は何も知らないというのは、どうにも納得できない。
 男は溜息を一つつくと、ゆっくりと語り始めた。
「…この石碑はな、一般人の目撃証言をもとに作られたのよ」
「…えっ?」
 流石に予想の範疇を超えた回答だったので、僕も驚いてしまった。おそらく先程の男のような表情になっていることだろう。
「言った通りの意味さ。こいつぁこのイッシュのどっかで数年前に起こった出来事を、偶然見てた一般人共の証言をもとに描かれた分と絵なのさ。だから本当にこんなもん見たのか、こんな奴らがいたのか、真相は誰も分かりゃしねえ。作り話かも知れないし、本当に見たんだとしても何かの間違いかも知れないし、二人の名前も空耳かも知れねえ」
「…」

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