①-3 『前兆(まえぶれ)』 1
2017年6月26日 Boys&Gils3
薄暗い研究室の中、一人の眼鏡をかけた男が机に向かって作業をしている。8畳ほどの部屋の中には資料やら謎の設計図やら、書物が所狭しと積まれており、まさに文字通り足の踏み場もないといった状態だった。
「ふふふ…イッシュ地方は間もなく、本来の“イッシュ”地方になる…くくくくく」
彼は目の前のコンピュータを眺めながら、一人で楽しそうに笑っている。画面には謎の数字の羅列。普通の人間─この場合人類の九割九分が該当するだろう─には何を示しているのかちんぷんかんぷんだろうが、彼にはそれが分かる、かつ見ていてとても愉快な数字らしい。
「“ぶらざ殿”もいずれ感服して頭を下げるでしょう…。この天才的な頭脳を雇うとは、なんと運の良いお方…」
彼はある人物の姿を思い浮かべながら、さらに想像を膨らませた。名前も顔も知らない、しかし彼の唯一無二の主。考えているのはすべて捕らぬ狸の皮算用だったが、それでも彼は満足だった。そしてその至福の時を崩壊させる音が、彼の耳に入る。
「ん?」
音の元は、机の上、彼の右側に置かれている携帯電話。画面には、噂をすれば例の男だった。彼は舌打ちをしながらしぶしぶ電話を手に取り、画面をタッチして耳に当てた。
「全くこんな時に…もしもし?」
『私だ。順調か?』
聞こえてきたのは、聞き慣れた、加工の入った声。何のために声を変えているのかは誰も知らないようで、初めは違和感しかなかったが、何度も聞いていくうちに全く気にならなくなってしまっていた。
「ええそりゃあもう!いつ法則性を割り出せるかなんて、時間の問題ですよ!それさえ分かってしまえば…あとは、実物と例の書物さえ揃ってしまえば、もう計画は遂行されたも同然!」
眼鏡の男は着信が来た時とは打って変わって、楽しそうに自慢げに話す。しかし、それもまたすぐに断ち切られることになった。
『そのことなんだが』
「んんー?」
『どちらも失敗だ』
「な…なんと!!」
男は怪物でも目の当たりにしたような、驚きと絶望の入り交じった顔をした。通話の相手から告げられたのは、自分の研究に、何より自分たちの大いなる計画に必要な材料を入手し損ねたということだった。
薄暗い研究室の中、一人の眼鏡をかけた男が机に向かって作業をしている。8畳ほどの部屋の中には資料やら謎の設計図やら、書物が所狭しと積まれており、まさに文字通り足の踏み場もないといった状態だった。
「ふふふ…イッシュ地方は間もなく、本来の“イッシュ”地方になる…くくくくく」
彼は目の前のコンピュータを眺めながら、一人で楽しそうに笑っている。画面には謎の数字の羅列。普通の人間─この場合人類の九割九分が該当するだろう─には何を示しているのかちんぷんかんぷんだろうが、彼にはそれが分かる、かつ見ていてとても愉快な数字らしい。
「“ぶらざ殿”もいずれ感服して頭を下げるでしょう…。この天才的な頭脳を雇うとは、なんと運の良いお方…」
彼はある人物の姿を思い浮かべながら、さらに想像を膨らませた。名前も顔も知らない、しかし彼の唯一無二の主。考えているのはすべて捕らぬ狸の皮算用だったが、それでも彼は満足だった。そしてその至福の時を崩壊させる音が、彼の耳に入る。
「ん?」
音の元は、机の上、彼の右側に置かれている携帯電話。画面には、噂をすれば例の男だった。彼は舌打ちをしながらしぶしぶ電話を手に取り、画面をタッチして耳に当てた。
「全くこんな時に…もしもし?」
『私だ。順調か?』
聞こえてきたのは、聞き慣れた、加工の入った声。何のために声を変えているのかは誰も知らないようで、初めは違和感しかなかったが、何度も聞いていくうちに全く気にならなくなってしまっていた。
「ええそりゃあもう!いつ法則性を割り出せるかなんて、時間の問題ですよ!それさえ分かってしまえば…あとは、実物と例の書物さえ揃ってしまえば、もう計画は遂行されたも同然!」
眼鏡の男は着信が来た時とは打って変わって、楽しそうに自慢げに話す。しかし、それもまたすぐに断ち切られることになった。
『そのことなんだが』
「んんー?」
『どちらも失敗だ』
「な…なんと!!」
男は怪物でも目の当たりにしたような、驚きと絶望の入り交じった顔をした。通話の相手から告げられたのは、自分の研究に、何より自分たちの大いなる計画に必要な材料を入手し損ねたということだった。
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