「別に見せてくれるだけでいいんだぜ?見たら大人しく引くつもりだしな」
「それでも駄目…と言ったら?」
「そいつは…残念だ」
「…?」
 少女は、男の反応に少々違和感を覚えた。男の表情や話しぶりは変わっていない。怪しい挙動をする様子もない。しかし、それがおかしかった。彼の反応が予想外すぎたのだった。
「…どうしたのよ?あたしは何言われてもこの中のものを外に出す気はないわ!ポケモンでもなんでも出したらどうなの!?」
 彼女はバッグを強く抱え込みながら主張した。
 そう、彼らは彼女が強く拒否しても、襲ってくることはなかった。悪者ならば、こういう時は強硬手段に出るものとばかり思っていたのだった。
「だから言ったじゃねえか。俺は他人を必要以上に傷つけるのは嫌いなんだ。危害は加えず、目的だけを達成したい。それが主義なのさ」
「くっ…」
 男の言っていることが本当かは分からない。嘘の可能性が高いだろう。しかし、本当に厄介なのは、彼らが攻撃してこないことだった。彼らが襲ってくれば、返り討ちにして突破することも出来たかもしれないが、相手が動かなければ非常に脱出が困難になる。こちらから攻撃して追い払うこともできるかもしれないが、まだ何もしていない相手に攻撃を仕掛けることは憚られた。
「こうなったら…」
 そして、少女は最終手段に出た。

「!?」
 さすがに男たちも予想外だったらしい。彼女は走り出し、男の間を縫って外に出たのだった。そしてそのままその場を走りだそうとした。
 しかし、事はそう簡単には運ばなかった。
「チッ…出て来い!」
 男はとうとう腰のボールを外し、中からポケモンを呼び出した。
 巨大な蜘蛛のような姿をした、恐ろしい外見のモンスターだった。
「デンチュラ、“糸を吐く”!」
 男が命令すると、そのポケモンは口から糸を吐き出し、少女の右の足首を捕らえた。
「うっ…」
 少女はその場で立ち止まるしかなく、頑丈な糸を引き千切ることもできなかった。

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