①-2 『遭遇(であい)』 1
2017年4月25日 Boys&Gils2
あの日から幾つの地方を回ったかわからない。でも、しっくり来る答えは何も見当たらなかった。
はじめて敗北の屈辱を知り、はじめて自分に変化を起こしたいと思ったあの日から、もう数年が過ぎた。その数年の間、僕は、無意識に自身を閉じ込めていた檻からその身を解き放つことにした。狭い檻の中では、生き物は、そこで与えられる餌も、そこから見える景色もずっと同じ。つまり、自身に生まれる価値観も変わらないままだった。だから、外に出た。自分が最強じゃない世界に。自分が全てではない世界に。
しかし、今のところ僕の内部に変化は訪れない。最強じゃない僕という物を、世界の中心でない僕というものをまだうまく認識できていない。もしかしたらこのまま僕は変わらないままなんじゃないか、或いは、実は僕はまだ自分を外に出しきれていないんじゃないか、そんな不安さえ脳裏によぎるようになった。
そこで今足を踏み入れたのがイッシュという大地だった。多様性を重んじ、無限に並存する多種多様な価値観を受け入れ合って人々が暮らしているという。この世界は、僕の今までの旅で感じてきた空虚な印象とは違う、新鮮な感覚を僕に与えてくれるだろうか。とは言っても、新しい地方に入る旅にそう期待しては裏切られていたので、今回もあまり期待はしていないのだが。
そう思いながら、僕は今セッカという湿地帯を含む都市を朝に出発し、一本道を歩いていた。周囲に草木が生い茂る自然の道路で、あと1、2キロも歩けば平均的な深さの森に突入すると思われる。
今通ってきたセッカという街は、ポケモン保護区としても有名らしく、湿地帯およびその周囲の植物が整備されており、その活動が街の周囲の植物にまで及んでいるという。そのため、僕が今歩いている道も豊かな自然に囲まれている。もしこれらを荒らそうものなら、環境整備団体からの厳重な処罰を受けるかも知れない。
そう、例えば、僕の数百メートル先に居る集団のように。
草木が茂っている道の中、一人の少女が走っていた。今出発してきた街から二つ先の街を通り、その先の道路に立っている建物が目的地だった。かなりの距離だが、事情があって公共の交通機関は利用できない。こうして走って向かうしかないのだが、体力にはある程度自信のある彼女にとっても苦痛な距離だった。
「ふぅ…まだセッカまで着くのにももう少しかかりそうね」
彼女は一度立ち止まり、両膝に両手をついて屈み込み、呼吸を整える。何十分経ったかは分からないが、それなりの時間を走り続けていたので、そろそろ疲労が溜まり始める頃だった。
「…もう少しだし、まだ歩こうかな」
そう呟いて彼女は再び立ち上がった。一応歩くだけでも夜には到着できるのだが、できるだけ早く目的地に着いた方が何かと都合がいいので、今まで通り少し急ぎ目に進むことに決めた。
しかし、それを許すまいとする者がいた。
あの日から幾つの地方を回ったかわからない。でも、しっくり来る答えは何も見当たらなかった。
はじめて敗北の屈辱を知り、はじめて自分に変化を起こしたいと思ったあの日から、もう数年が過ぎた。その数年の間、僕は、無意識に自身を閉じ込めていた檻からその身を解き放つことにした。狭い檻の中では、生き物は、そこで与えられる餌も、そこから見える景色もずっと同じ。つまり、自身に生まれる価値観も変わらないままだった。だから、外に出た。自分が最強じゃない世界に。自分が全てではない世界に。
しかし、今のところ僕の内部に変化は訪れない。最強じゃない僕という物を、世界の中心でない僕というものをまだうまく認識できていない。もしかしたらこのまま僕は変わらないままなんじゃないか、或いは、実は僕はまだ自分を外に出しきれていないんじゃないか、そんな不安さえ脳裏によぎるようになった。
そこで今足を踏み入れたのがイッシュという大地だった。多様性を重んじ、無限に並存する多種多様な価値観を受け入れ合って人々が暮らしているという。この世界は、僕の今までの旅で感じてきた空虚な印象とは違う、新鮮な感覚を僕に与えてくれるだろうか。とは言っても、新しい地方に入る旅にそう期待しては裏切られていたので、今回もあまり期待はしていないのだが。
そう思いながら、僕は今セッカという湿地帯を含む都市を朝に出発し、一本道を歩いていた。周囲に草木が生い茂る自然の道路で、あと1、2キロも歩けば平均的な深さの森に突入すると思われる。
今通ってきたセッカという街は、ポケモン保護区としても有名らしく、湿地帯およびその周囲の植物が整備されており、その活動が街の周囲の植物にまで及んでいるという。そのため、僕が今歩いている道も豊かな自然に囲まれている。もしこれらを荒らそうものなら、環境整備団体からの厳重な処罰を受けるかも知れない。
そう、例えば、僕の数百メートル先に居る集団のように。
草木が茂っている道の中、一人の少女が走っていた。今出発してきた街から二つ先の街を通り、その先の道路に立っている建物が目的地だった。かなりの距離だが、事情があって公共の交通機関は利用できない。こうして走って向かうしかないのだが、体力にはある程度自信のある彼女にとっても苦痛な距離だった。
「ふぅ…まだセッカまで着くのにももう少しかかりそうね」
彼女は一度立ち止まり、両膝に両手をついて屈み込み、呼吸を整える。何十分経ったかは分からないが、それなりの時間を走り続けていたので、そろそろ疲労が溜まり始める頃だった。
「…もう少しだし、まだ歩こうかな」
そう呟いて彼女は再び立ち上がった。一応歩くだけでも夜には到着できるのだが、できるだけ早く目的地に着いた方が何かと都合がいいので、今まで通り少し急ぎ目に進むことに決めた。
しかし、それを許すまいとする者がいた。
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