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 木々生い茂る深い森の中、一人の男が走っている。全身から汗を流し、何かから逃げ惑うように。年齢は恐らく中年入り立てというところ。その脇には、何やら大きな四角い物が抱えられている。余程大切な物なのか、絶対に落とさぬよう力を込めて。
「ハァ…ハァ…」
 今にも息が上がりそうになっている。時折後ろをチラチラと振り向いては、また前を向き、一層息を激しくしている。
 そんな彼の後ろから、もう一つの人影がついて来ている。彼を追っているようである。彼女の方は息を上がらせていない。寧ろスピードが増しているようにも見える。男性が遅くなっているのでそう錯覚させているのかもしれないが。
 そして、彼女は腰に片手を当て、何かを取り出した。赤白の、片手に収まる程度の球体だった。彼女はそれを前方に投げた。
「GO!」
 彼女がそう合図すると、球体の中から何かが飛び出してきた。体の長い、緑色の生き物だった。彼女よりも大きく見える。
「ジャローダ、逃がしちゃダメよ」
「シャッ!!」
 するとその生き物は彼女の指示に従うように、高速で地面を這い進み、男性に追いついた。
「ひ…ひぃっ!や、やめろぉ!」
 生き物は、男性の体に巻き付いた。もう逃がすまいとでも言うように、力を込めて。そこに、後から追いついた少女が歩み寄った。
「さあ、返してもらうわよ」
「く…くっそぉ!」
 少女の年の頃は恐らく16歳程。背丈は160台後半くらいで、帽子をかぶっており、長い髪をポニーテールにし、袖のないシャツにホットパンツと、あまり暖かいとは言えない10月のこの時期にしては露出の多い格好をしている。
 男性が持っていた物を返す気配がなかったため、彼女は威圧するように男を見下ろした。
「ひぃ、わ、わかった!これは返す!だから、その、離して!ポケモンしまってくれよぉ!」
 男は必死に抵抗し、結局持っていた荷物を差し出した。
「…ふう。ジャローダ、お疲れ様」
 そう言って彼女は再び赤白の球体を取り出し、緑の生き物に向けた。すると、たちまち生き物は光となって球体に吸い込まれてしまった。

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